転寝
帆場蔵人

張り詰めたガラスはため息を吐くように割れていった。冬の静寂にすべて諦めたように、身を投げた人びとのように、ひと息に去りゆくものの気配に、なにが言えようか。握りしめた石を凍った池に投げつけていた幼い記憶が、冷たい朝の気配を感じる度にため息と変わりゆくとき、ぼくは告発されるのだ。

肋骨の隙間から心臓を突き刺せば
みろ、怒りが噴き出した、これが
生命だ、怒れ、怒れ、怒れ!
激しく煙草を吸い尽くすように
刹那に怒り狂え蝿を叩き潰すように
人の苦しみを黙ってみている眼を
差し伸べない手を抉れ切りおとせ
路上に俺という俺を撒き散らして
カラス達すら食わない自分を晒せ

告発されるのだ、ぼくは告発されるのだ。諦めの吐息のたびに、温かなスープを喉に通すたびに通り越してきたすべてよ、板子一枚下は地獄だ。誰も皆、変わらない。板子一枚下か、上か。氷が割れるか、割れないか。凍りついた池に誰に背を押されるでもなく進みでる。さぁ、怒りを秘めた一歩はどこに転がるのか、鬼やカラスたちが息を潜める、うたた寝の時刻……



自由詩 転寝 Copyright 帆場蔵人 2019-08-14 19:12:31縦
notebook Home 戻る  過去 未来