真夏の黄昏
玉響

風に乗り
真夏の匂いが立ち込める黄昏時
草葉に注ぐ夕日と影
蜩の声はくうを舞い琴線に伝う
目に映るもの
聞こえる声
とり巻く全てのものに心惑う夕暮れは
束の間 平和だった幼い頃を思い出す

心に映る夏の日は 
今も色褪せることはなく
儚くも穏やかな風景は
時間を超え鮮やかに甦る
あの頃はまだ畏れや憎しみなど知らず
ただ眩しい海のように
澄み渡る空のように
何もかもが自然体だった

思い出に少し胸が痛むのは
歳を重ねる度に大切な何かを失い
身も心も虚飾に塗れた所為かも知れない
それでも 昔に戻りたいとは思わないが
不意に真夏の匂いを感じた瞬間
せつなさの波が押し寄せる

やがて 季節は移ろい
水平線の彼方に夏の欠片を見送ると
蜩の声は鎮まり
陽射しはやさしく変化する
そして 秋の足音が近づく頃
私は周りのガラクタを処分して
旅の支度を始めるのだ

あの頃のように
あるがままの自分を受け入れ
身一つで 自然に還る日のために


自由詩 真夏の黄昏 Copyright 玉響 2019-08-06 16:26:58
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