バタをごってり、うす切りトマト
はるな


夏がきましたよ。蝉!(叫ぶむすめ)。
都立高校の窓から吹奏楽の演奏が落ちてくる。七月盆が終わって、売れ残った竜胆と蓮の葉。
水をはじいて光を跳ね返すような色の濃い夏の花たち。一年半とすこし働いた仕事を辞めた。
忙しくてすきな職場だったけど、こうして根無しぐさみたいにいるのも好きだ。
鉢植えの葉っぱたちもすぐに枯らしてしまうし、髪をおもいきり短く切ってもらって、裾のながいスカートを買った。
つめたくて甘いコーヒーをもらって座る有楽町の窓ぎわ、ぱっとしないセール品。
根無しぐさみたいにいるのは好きだ。でも、知っているひとがいなくてぞわぞわする。
人間みたいな顔をして地下鉄を乗り継いで、不安に抗えるくらいの小銭で財布を重たくして、欲しいものがないからぶらぶらあるいて、むかし読んだ小説を思い出す。


散文(批評随筆小説等) バタをごってり、うす切りトマト Copyright はるな 2019-07-25 20:10:39
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