猫と財布  1話
丘白月


財布を拾った
ボロボロの財布
いや綺麗だった財布なのだ

噛まれて引き摺られ
よだれでベタベタになり
砂やゴミがくっついて

くわえた猫と目が合った時
落として逃げて行った

財布を拾いあげて開いた瞬間
猫が腕に飛びついた

小銭が落ちて転がった
猫は追いかけようと身構えたが
四方八方をキョロキョロ
どれを追いかけるか迷っていた

私はお札が入ってないか見た
盗むつもりはないが
中身を確認した

いくつか入っていた
スーパーのポイントカードに
名前が書いてあったから
すぐに落とし主も分かるね
そう思って交番に届けようと
パンパンと汚れをはらうように
財布を叩いた

あっそうだ小銭拾わなきゃ

そう思って落ちた方を見たら
猫がぜんぶ集めて
私の方に持って来た

だめだよ
このお金は僕のだよ
ぜんぶだよ

なんと
猫がしゃべたのだ

その財布返してよ
僕のおねえちゃんのだから

もう一度カードの名前を見た
たかはし ともこ・・・

おまえの飼い主かい?

もういないんだ・・・
ずっと昔に・・・

僕が春に生まれて
夏が来る前に天国へ行ったんだ

だから顔は忘れてしまったよ
今は匂いしか覚えていないんだ


*****
つづく


自由詩 猫と財布  1話 Copyright 丘白月 2019-07-23 17:44:10
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