虫のなみだ
由木名緒美

水面を幾重にも抱きながら藻が囁く
流れは何をも見送るもの
躓くものも うつむくものも
嘲笑うものも 祈りのひたいも

魚が撥ねる
いま その尾が視とめた光の破片が
太陽の剥がれた抜殻として
虫の呼吸の反射する瞬きを
浸された腹の午睡に手放す

東南から湿気を孕んだ風が吹き
川の流れが滂沱の落涙に縁取られる時

あなたは笑うだろう
あなたは真実を打ち立てるだろう
あなたはあなただと頷くだろう

だから私も走ろう
風が吹いている方角
その最先端で煙る水滴の霞を
頬に幻視し浸しながら

水面へと還る
一匹の虫として
尾のふられた先の葉陰をふるさとに
光の凱旋を待ちわびながら


自由詩 虫のなみだ Copyright 由木名緒美 2019-07-20 10:09:26縦
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