夏の記し(三編)
帆場蔵人

1 夏雨

梅雨の長雨にうたれていますのも
窓辺で黙って日々を記すものも
ガラス瓶の中で酒に浸かる青い果実も

皆んな夏でございます

あの雨のなか傘を忘れてかけてゆく
子ども、あれも夏、皆んな夏、

皆んな皆んないつかの夏でございます

そろそろ夏は梅雨をまき終えて
蛍の光を探して野原を歩いております

***

2 夏の鶏冠

紫陽花寺の紫陽花が枯れてゆき
昼か夜か、ゆるりと池の蓮子はひらく
息をゆるりと吐くように息吹いてゆく

白雨に囚われた体から漏れるため息のよう
しかし、それは曇天を燃やしてやって来た

色褪せてゆく庭を
悠然と歩き時に奔放にかけ
地を啄ばみ曇天を燃やす
焔のような鶏冠を頂き
枯れゆくものを見送り
咲きくるものを迎える
使者のように

ひぃ、ふぅ、みぃ、よ、の鶏が
梅雨を啄ばみながらその鶏冠で
終わらない夏に火をともす

いつのまにか蓮子がひらき
続いてゆく夏の小径を私の足は
軽やかに動き白雨を突き抜けて
入道雲を呼びつける使者になる

***

3 黄昏れる怪談

夏の放埓な草はらの彼方に
白く靡くのは子どもたちが言いますに
一反木綿だそうなのです

また海に迎えば落ちてきそうな入道雲
あれが見越し入道だと笑っています

片目を閉じて一つ目小僧、物置きの
番傘は穴あきのからかさ小僧、はてさて
では子どもたち君たちはなんの小僧か

あゝ、楽しくてこの怪談はちっとも
涼しくないのです、子どもたちは
手を繋ぎ私の周りを周ります

夏の夕べに誰彼と行き交う人が笑います

後ろのしょうめんだぁれ?と
聞くなかに見知った子どもはいないので
ひとつも名前を呼べません


自由詩 夏の記し(三編) Copyright 帆場蔵人 2019-07-15 20:53:23縦
notebook Home 戻る  過去 未来