都市の伝説じゃなくて
こたきひろし

都市伝説じゃなかった。
文字通り、地方か田舎の伝説。だから、信じるもよし信じてくれなくてもいい。

俺の父親はちゃぶ台のひっくり返しが好きだったみたいだ。頑固一徹で癇癪持ちで我が儘で無類の酒好きと、悪い所申し分無しの男だった。
気に入らない事があると朝昼晩を問わずに家族の食事の団らんを平気でぶち壊した。
母親にはいつもねちねちとあら探しをして自分の鬱憤を解消していた。


当時はとても嫌いだった父親の口からその話を聞かされたのはある夏の日の夜だった。その日は夕方酷い雷雨に見舞われてしまい、近隣の店に焼酎を買いに行けなかった。
酒を切らした夜、父親はおとなしく静かだった。
まだテレビが出回っていない時代で娯楽は乏しかった。都会ならまだしも山あいの暮らしだったから無理もない。
我が家の子沢山もその辺に理由がありそうだった。

父親はぼそぼそと語り始めた。家族はちゃぶ台の回りに集まり黙って聞いた。
俺が餓鬼の頃の事だ。と父親は言った。
「今も貧乏だが、その頃はもっと酷くて、間引きが頻繁にあったんだ。つまりよ、予定外の妊娠はよくあったが、産んでも食べさせられないから出産と同時に可哀想だが、一思いに鉈を振りおろしちまうのさ。」
そんな話、俄に信じ難いが父親は真顔で言った。
「父ちゃんいくら何でもそんな事したら捕まって刑務所行きだろ」
と一番上の子供が聞いた。
すると父親は不適な笑みを浮かべた。
「そうはならないんだな。世の中には暗黙の了解ってやつが有るんだよ」
社会が状況を飲み込んで黙殺するのさ。
と冷たく言い放った。その証拠に俺のお袋は七人産んだが、その内の二人は死産だよ」

俺は父親の話に耳を傾けながら背中が震えだして止まらなかった。
お前たちは無事に産まれて育ったんだから、感謝しなきゃなと父親は言った。
そしてつけ加えた。「この俺に」



自由詩 都市の伝説じゃなくて Copyright こたきひろし 2019-07-15 00:31:10
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