オカリナを吹く
たま

気まぐれにオカリナを吹く

郊外にある運転免許証センターの駐車場で
これが最後だという妻の免許更新の日だった
ペーパードライバーの妻は
当然、無事故無違反だから
更新は二時間ほどで終わる
薄曇りの駐車場に止めたラパンの運転席で待つわたしは
オカリナを吹く

今日の練習曲は
「コンドルは飛んで行く」と
「マイ・フェバリット・シンクス」の二曲

「コンドルは飛んで行く」はオカリナの定番だけど
まともに練習したことがなかったから
気を入れ直して丁寧に譜面を読むことにした
「マイ・フェバリット・シンクス」は
二十歳の頃に聴いたコルトレーンの名演が忘れられなくて
コルトレーンを真似して吹いてみたかったのだが
練習用の譜面は村地佳織のギター譜を用意した
村地佳織の奏でる主旋律とアドリブ譜を参考に
コルトレーンのあの鳥肌の立つアドリブに
一歩でも近づきたいという魂胆だが
オカリナでそれをやるのは無謀というものか
まあ、それもいい
音楽は憧れから始まるのだから
いつまでも追いかけていたいのだ

あと何年、車の運転ができるだろうか
妻もわたしももうそんな歳になった
できることであれば生涯免許証は持っていたい
もちろん、そのための心構えは必要だ
ギターを弾いたり
オカリナを吹いたり
すべてはわたしの希望する人生を生き抜くための訓練に過ぎない
加齢とともに
追いかけるものたちはますます速度を上げて
わたしのラパンはもう追いつけないだろう
でも、それを承知で
気まぐれにオカリナを吹くのだ

ささやかな
わたしの人生を更新するために














散文(批評随筆小説等) オカリナを吹く Copyright たま 2019-07-11 10:40:05
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