ぞう
為平 澪

大きな一頭のゾウの写真をこっそりと 
一人だけ見ることのできる男がいた

男はゾウを連れてきて
人々に目隠しをして触らせた

北の民はゾウの耳を撫でて
ゾウは耳だと言った
東の民はゾウの尻のあたりを巡り
ゾウは匂いのする丸いモノだと言い
西の民はゾウの足を抱いて
大木に違いないという
そして南の民はゾウの鼻に触れ
ゾウは長いのだと言い張った

戦争がはじまり
写真を見た男だけが
高みの見物をした

そして
殺して剥製にしたソレに
「お前は金になった」とだけ
耳打ちした



自由詩 ぞう Copyright 為平 澪 2019-06-30 20:17:42
notebook Home 戻る  過去 未来