眩暈
帆場蔵人

前庭に鯨が打ち上げられて
砂が、チョウ砂が舞い上がれば
世界は揺れて空と大地は
ぐわぁんぐわぁんと回転しながら
遠ざかったり近づいたり

もしチョウ砂が黄砂のように
気流に乗るなら、あの港をぬけて
沖へ沖へと耳は運ばれて大海を
泳ぐ魚たちの仲間入りができるだろうか

セミとザトウを獲っていた親戚から
もらった耳石は片方しかなかったので
鯨になり損なってしまった

そしてチョウ砂が舞う日は
三つの耳石が共鳴りをして
僕は前庭器官でダンスする
壁と天井と床を掴むように
ひとり踊る聴砂が舞う日に

ベランダから身を乗り出して
海を懐かしむ打ち上げられた鯨の耳


自由詩 眩暈 Copyright 帆場蔵人 2019-06-25 23:38:30
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