鳩と修司
ただのみきや

浮き沈む鳩の斑な声に文を書く手も唖になり
犬連れの人々が屯う辺りへ角張った眼差しを投石する
紙袋を被る息苦しさ己が手足を喰らう祈り
内へ内へと崩落しながら書くほどに死んで往く


薄緑のカーテンの裏を歩く蟻の影は引き伸ばされて
タブラに合わせて踊る指先と目と 冷たい臥所
部屋の隅にぼんやりと 蕾のまま石化した時間
どこからか歌うような痴話喧嘩が聞える


 一筋二筋 消しゴムで擦ること
 世界からの強奪 個々の主観による凶行


テニスコート沿い杉の並木を縫うように鳩は啄み
道を挟んだ垣根からツツジが覗く
風に頬杖をついた老女の眼差しが
レジ袋いっぱいの荷物を抱えた妊婦の腹を撫でる
小雨の跡は消え埃の匂いがまだひんやりしていた


追憶の嘯く仕草に見透かされて目を伏せる
その角度の企み
もの書きの言葉は蔓草のように空白を覆う
人の心の曖昧に輪郭を施すかのような美しい戯れ


首の曲がった男が笑う夜中のドアーのように
ドアーが軋む首の曲がった男が笑うように
どちらでも同じこと耳は聞いているだけの明き盲
人は夢を愛し言葉は真正直で欺く


西区の山の手にいつの間にか寺山修司資料館が出来ていた
入ると必ず携帯が鳴って外へ出る羽目になる
発寒川の鴎が光を切り裂いて目を瞑るほど眩しい
放棄したくなる幻より現を叶わぬからこそ喀血する




                  《鳩と修司:2019年6月15日》










自由詩 鳩と修司 Copyright ただのみきや 2019-06-15 12:52:57縦
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