真夜中
由比良 倖


電線に、途切れ途切れの感情が映っている。
赤く。
遠くにあって、
ここにないものだけが、卑屈になれる。

理屈じゃなくて退廃。

会いたい気持ちを代弁してくれるのは、
ビデオテープ、
寒暖の差、
夏に吹く冷たい隙間風、
虫の声、
ずっと大切にしてきたいくつかのもの、

私は私であって、
私の身体じゃない、


ひとつひとつの物たちが、ものたちの影が、
服が、服の皺が、
愛おしい。


届かない光について歌いたい。

既製品について。
盗品について、
それから、
ただの私について。


見えない翼が痛い。


私は何も持たずに産まれてきた。
そして、何も持たずに死んでいくだろう。
何を手に入れたって同じ。
何も手に入れなくたって同じ。

宝ものの数々が私の心を抱くだけ。

「遊べ」と言われた。
「働け」と言われた。
私は遊ばず、働きもせず、
私は起きていた。目を開けていた。
(眼球の裏側、涙の水溜まり。)
そして死ぬときを待っていた。

私は消滅するだろう。
何もかもが恋しかった。

誰かの半世紀を、
悪い声で、悪い音で、
満たしてしまうかもしれない。

それならいい。
私は私であることをやめない。

息を止めない。
この指先で、奏でたい。


私は死んでいく。
物の中で物として。
コンクリートの建築の中。
音楽の中。
心の、暖かい影の中に。

伸びやかな声が欲しかった。
感覚と、感情の中で。

熱を帯びていたかった。

何も持たず死んでいく。
LEDが電気を消費している。
私は夜中、ディスプレイの光に照らされている。

私は何も持たない。
私は浪費するだろう。
私は画集を破るだろう。
私はラストを見るだろう。

私は歌うだろう。
私はギターを浴びるだろう。
私は音楽になるだろう。
破れた。
壊れた。

私はここにいないだろう。
私はいない。
私は消費の中に身を置くだろう。

そこに私はいない。
(私はここにいる。)


声を。
声をください。


時には私は脆い、
優しさのかたまり。

感情が襲ってきて、
しどけないような。

空から降りてくる翼が
空気の中で剥がれて、羽毛が光のように舞う、
恩寵のように。


ジミ・ヘンドリックスみたいな、
神様が、私の無意識を照らす。
ここは王国。

石くれの王国。

赤い、ダウンジャケットを着て行く。

雨みたいな空模様。
全ては光っている。

手を合わせて、
祈りをあげる。

もし、祈りだけが言葉になるのならば、

感情以外
すべて
捨ててしまえる。


自由詩 真夜中 Copyright 由比良 倖 2019-06-08 12:42:22
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