夜中に母親が現れて
こたきひろし

昨夜は死んでいる自分の夢を見た
まだ息を引き取って間もない自分の体だった
死んで間もない自分の心は
遺体から抜け出していた

遺体から抜け出した自分の心は
直ぐには天国へは昇れなかった
て言うか
その先天国へ昇れるか
地獄へ落ちるかは
自分では決めれないんだろう

それから先の自分の遺体の推移を見守らなくては
ならなくなった

何の前触れもなく
女の人が突然にあらわれた
どなたですかと訊いたら
お前の母ちゃんだと答えてきた

何言ってるの
母ちゃんはとっくの昔に死んでいるから
と言ったら
お前こそ何言ってるの
お前も死んでいるんだよ
死にたてだけれどさ

母ちゃん
それは違うと思うな
あんたの息子はまだ焼かれていないんだ

もしかしたら
自分の遺体の中に
心が戻れるかもしれないじゃないか

そう思うんだったら
やってみな
やってみればいい

復活してみせるよ
と俺は母親に言った
けれど
その方法が皆目わからなかった
その方法を探し回って
夢のなかで苦しみもがいた
そして覚めた

昨夜は死んでいる自分の夢を見た
それは悪い夢か
いい夢なのか
判断がつかない

いずれにしても
生きている間にしか
夢を見られない
現実

認知症にかかって
寝たきりになって
そして死んだ
母ちゃん

申し訳ないけど
悪いけど
言ってはいけない事だけど
俺は
母ちゃんみたいな
最期は
嫌だよ






自由詩 夜中に母親が現れて Copyright こたきひろし 2019-06-06 07:02:45
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