東京少年 (皆のウタ)
虹村 凌

東京少年
空を見上げる
星が見えない新宿の夜空
僕達は 吸い慣れた煙草をふかして
何時も通り どんな通りだって
みんなして練り歩いていた

東京少年
空を見上げる
星が瞬く世田谷の夜空
僕は誰もいない屋上で缶コーヒー飲みながら
何時もみたいに どんな歌だって
口笛にして楽しんでいたんだ

東京少年
空を見上げる
太陽が照りつける国立の空
僕達は授業も聞かずに空を眺める
何時もの午睡 どんな時だって
やりたい事をやっていたんだ



裕福な僕達は
決して何かに脅かされもしなかった
決して何かに怯える事もなかった
どんなにギリギリの状況でも
僕達は何とかなるって笑っていた
東京少年
僕達は何とかしてきた
そして何もかもを手に入れられると思った
だから 僕達は全てを望んだ
それが例え 分かり合えた筈の友の
愛する人であったとしても


東京少年
空を見上げる
太陽がギラギラと輝く世田谷の空
僕達は宛てもなく歩き回って遊んでいた
そしてその気になってしまえば
どんな場所でだってキスをしていた


僕達は知らない事が多すぎた
そして手に入れたモノは
要らないモノが多すぎた
色んな事が判りかけたかと思えば
それはあっけなくひっくり返ってしまう
僕達は何を信じればよかったのか
大人達は僕達の事を判っていないようで
本当は一番理解してくれていた
僕達は何に背を向けていたのだろう


東京少年
空を見上げる
雨が降りしきる世田谷の街
僕達は傘をささずに歩き回っていた
冷えた身体を抱きしめて
ひとときの幸福を噛み締めていた

東京少年
空を見上げる
雨が降りしきる世田谷の街
僕達は何もわからずに生きていた
口付けた感触を何時までも覚えていた
このまま世界が終わればいいと思っていた


裕福な僕らは何でも手に入れる事が出来た
要らないモノが多かったとしても
何だって手に入れてきたんだ
ひとときの不良ごっこに道を見た気がして
僕達は何かに抗ったんだ
何かに背を向け
近づくモノは全て傷つけた


東京少年
空を見上げる
太陽がギラギラと照りつける夏のつつじが丘
僕達は君の部屋でカーテンも閉めて遊んでいた
誰にも言えない 僕達だけの秘密
風が ゆるり カーテンを揺らした


東京少年
空を見上げる
月が優しく微笑む成城の空
僕達は一緒になっているつもりだった
世界なんてどうでもよかった
地球の裏側で涙も枯れていた頃
東京少年
僕達は愛さえあれば何だってよかった
愛こそ全てだと思っていた
東京少年
僕達は僕達が良ければ何だってよかった


自分が何なのかわからないから
僕達は誰かを傷つけて誤魔化した
自分が何なのかわからないから
僕達は欲望だけに従ってきた
真夏の太陽にも似た
僕達のギラギラした目つきは
見るモノ全てを輝かせた
東京少年
僕らの手の中のナイフは
使われる事なんて無かった
僕達は自由だった
それでも僕達は何かに背を向け
何かに抗い 脆いナイフを振り回した



東京少年
空を見上げる
優しく微笑む太陽
東京少年
空を見上げる
優しく見つめる満月
その空に父と母を見つけた


東京少年
僕達は天使だったのだ
この世で一番優しい
天使だったのだ





自由詩 東京少年 (皆のウタ) Copyright 虹村 凌 2005-03-31 23:57:48
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