魚屋でギターを売っちゃ悪いのかよ
帆場蔵人

近所の魚屋にギターが売られていて
魚屋のじい様、年季の入った海軍御用達の
看板を磨いてぴかぴかにして笑っている

こいつはまた活きのいいギターじゃないか
そういうとじい様は息子が若い頃に弾いてたからといいながら
最近では顔もだしよらん、と腹ただしげに杖をカンカンと鳴らす

ちょいと失礼、ギターを借りて一曲弾けば
じい様、お前さん、うちの息子より上手い
もんだと感心している、まぁ、そうだなぁ

二十年前よりは上手くなったもんだよ
なぁ、親父、今日は漁連に仕入れに
いかねぇのかい、鰆がくいてぇなぁ

話してるうちに私が誰か親父のなかの
歯車が噛み合って、馬鹿やろう、魚屋の
店先でギターなんか弾きやがって、と
怒りながら店を閉めてしまった

買い置きしてた鰯を置いておくと
親父は手早く捌いて煮付けを作っている
上手いよなぁ、母さんより、上手いよ

また翌日の早朝には店を開けて
ギターや骨董品が店先に並ぶ
日曜日には私も店先を掃除している

まだ幼かった日のように親父の罵声を
聴きながら、魚屋を開いている


自由詩 魚屋でギターを売っちゃ悪いのかよ Copyright 帆場蔵人 2019-06-02 03:05:05縦
notebook Home 戻る  過去 未来