づきづきと心が痛んで
こたきひろし

づきづきと心が痛んでいました
正体はぺらぺらの心なのに

その時僕は十四歳
正男君も同い年でした

僕が正男君に近づいて仲良くなろうとした本当の理由は
三歳年上のお姉さんがいたからです
清楚で綺麗で女性的な人でした
まだ女子高生なのに
大人の女性の香りがしていました

驚いた事に
正男君は顔立ちや言葉遣いやふるまいがお姉さんそっくりでした
彼は弟と言うよりも まさに妹と言っても過言ではありませんでした

とは言っても
普通に男の子の服装はしていました
ただ普段からなよなよしていて
周囲も僕も違和感を覚えていました

正直
表面には出さずにいましたが
僕は心の中でそんな正男君に不快感を抱いていました

相手が女性なら抱く筈の好感が
戸籍の上では男性の正男君にはどうしても
受け入れられませんでした

僕はけしてそれをしませんでしたが
わきあがる偏見や差別の心から
周囲から苛めの対象にされていました

僕がその仲間に加わらなかったのは
ひ弱な体と気弱い性格がわざわいして
僕もまたいじめられる立場だったからです

しかし
けして僕は善意と正義の少年ではありませんでした
ただひとえに臆病だっただけでした

あれは
正男君が何日か学校を欠席していた日でした
担任の先生から僕に 学校の帰りに様子を見にいってくるように言われてしまいました
僕は心の中で「それって先生の役目じゃないですか」
と主張したかったのに
それが言えずに引き受けてしまいました

同時に 僕は内心
もしかしたらお姉さんに会えるかもしれないという期待に
ときめいてもしまいました

僕も正男君も自転車で中学校に通学していました

正男君の家は大きくて広い庭でした
僕はいつもそばを通り過ぎるだけで
一度も立ち寄った事のない家を初めて訪問しました

玄関の近くに正男君の自転車は止まっていました
僕は正男君を呼びました 何度も呼びましたが返事がありませんでした

なので僕は家の裏側に回りました
窓がありました 少し開いてました
僕はそこから覗きました

正男君のお姉さんが見えました
セーラー服を着ていました そばにもう一人女の子がいました
中学の女子の制服を着ていました
お姉さんとそっくりでした

お姉さんのおさがりを着ているに違いないと僕は思いました
僕はその時
見てはいけないものを見てしまった

思いました

そして言葉を発してしまいました
正男君



自由詩 づきづきと心が痛んで Copyright こたきひろし 2019-06-01 01:41:32
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