写真は真実をどこまで写せるか
こたきひろし

写真を撮られると
いっしょに魂を吸いとられると
誰かに教えられたか
何かの本で読んだ事がある

わたしは
嫁入り道具の箪笥の引き出しの中に
一冊の
集合写真のアルバムをしまい忘れていた

そんな事は誰にでもある違いなかった
一組の男女が
どんな形でもくっついて離れられなくなって
同棲したり結婚したりすると
たとえそれが狭い殺風景なアパートの暮らしから始まったとしても
お互いがそれぞれの思い出の物を
ひとつかふたつ
それ以上を持ち寄るものだろう

持ち寄りながらも
お互いそれを見せ合ったり
確かめ合ったりを
わたしも彼も一度もしてはいなかった


正直
わたしは彼の思い出の品物を
見るのも見せられるのも怖かった
同様に
わたしは自分の思い出を
見せるのも
見られるのも嫌だった

なのにどうして
わたしは思い出を引っ越しの荷物の中に入れて
実家から出てきたのだろう

集合写真のアルバムは
わたしが一番最初に働き出した職場での
社員旅行の思い出をカメラに撮されたものだった

わたしはその中の写真から
特定の人物のところだけ
鋏で切りとっていた

もしそれを彼が見たら
何故だ
と言う疑惑を生むに違いないと思いながら

まるでわざと地雷をしかけて
それが
爆発するのをたのしみに待つみたいに

彼に理由を聞かれたり問い詰められたりしたら
素直に答えられない自分と
それを
極度に怖れる自分がいるのに

わたしは嫁入り道具といっしょに
実家から持ってきたのは何でだろう
もしかしたら
彼に
貴方は代用品と言いたかったのかもしれなかった
いまだにくすぶる思いがわたしの中にあるからかも
しれなかった
青春の思い出って
ものに

写真を撮られたり
撮ったりすると
魂を吸いとられるらしい

そんな非現実を
わたしは信じていた頃
わたしは初めて男の人を
体験していた


自由詩 写真は真実をどこまで写せるか Copyright こたきひろし 2019-05-30 22:15:33
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