冬がくる前に
こたきひろし

日が傾き日が落ちるまでの間の時間帯が好きだったよ

中学の頃さ
家から学校までは十キロ近くあって
毎日自転車で通学した
きつかったな
ほとんどが急な坂道で上ったり下りたりした
冬場は体が暖まったが
夏は死ぬほど辛かった

学校の校舎は高台にあって周囲は林に囲まれていた
私は内向的な性格で無口だった
栄養が不足していたから体は痩せていて背は低かった
運動が苦手で駆け足が遅かった

だから
体育の授業と体育祭は大嫌い
特にリレー競争は地獄だった
私がメンバーの一人になったチームは大概は最悪の結果でゴールしてしまうからだ
自然 私は疎外され憎悪の的になってしまったよ

そんな私に友達はいなかった
友達はできなかった
もし私と友達になってしまったら
周囲からつまはじきにされてしまうに違いなかった

だから
けして孤独を愛していた訳ではないけれど
私はいつも孤立していた

当然 教師からも見放された存在
クラスを受け持つ担任にとっては
お荷物になった
教室内の空気を潤滑させるには障害物に見られてしまった

全体の中に異質な個体が紛れ込んだ場合
取り除くのがベストな選択だ
しかしそれは著しく正統性を欠く
憚られたから
教師はその存在の無視を選ばざる得なかったのだ

先生もまた働く労働者の一人なのだ
自分を自分の生活を守らなくてはならない

幸い
問題の生徒はひ弱でおとなしい
従順で目立たない
無視は何ら問題にならないだろうと
担任は都合のよい結論を導き出した

私はクラス全体から酷い苛めにあっていた
言葉による虐待
暴力による虐待
さすがに担任の前ではなかったが
授業と授業の間の休憩時間
お昼休み
放課後の掃除の時間
などなど
苛めの標的にされた

勿論
教師は
気づかない訳がなかった

ある日
私が授業と授業の合間の休憩時間に立ち上がりトイレに向かおうとした時
女子生徒の一人がわざと私の前に足を出した
私がバランスを失い転倒した時
その場にいたクラスメートたちは嘲笑と歓声をあげた
私はその時左目が机の角に当たりそうになった
危なくそれたが
激痛を感じて目を手で押さえた
それを見て誰一人駆け寄りいたわる者はなかった

間もなく休憩時間は終了し
担任があらわれたが何事もなかったように
クラスメートたちは席に着いた

担任は席から離れ立ったまま目の辺りを手で押さえ痛そうにしていた私に気づかない訳はなかったが
何も見ないふりをして私に自分の席に着くように促した

その直後私は激しい怒りを感じて教室を飛び出した
しかし
誰も私の後を追いかけては来なかった
私は全力で校内を駆け抜け自転車置き場に行った

その時
私は私自身の運命を呪った
救われる事のない自分が哀れで可哀想になった

目をあげて空を見ると
日は傾いていた
晩秋の空気が充満し

非情な冬の気配がしていた






自由詩 冬がくる前に Copyright こたきひろし 2019-05-26 07:50:46
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