帆場蔵人

手を
引かれて見知った町を歩く
老いた漁師の赤らんだ手が
まぁ、まぁ、呑んでいきな、と手まねく

あすこの地蔵、おどしの地蔵さん、脅しな
明治の頃、沢山の人がコレラで死んだ
焼き場はいっぱい……あすこで焼いたそうだ
あすこに祖父さまはおどし番に立ってたんだ

小さな手、大きな手、硬い手、柔らかい手、
手が、沢山の手が積み上がり
人々の静かな祈りに眠っている

手を
引かれて、そっと手を合わせ、
見知らぬ町の顔を、その輪郭を、手でなぞる


自由詩Copyright 帆場蔵人 2019-05-22 13:43:07
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