遠い火をみつめて
帆場蔵人

遠い火をみつめている
どこにいても遥か彼方で
ゆらぐこともなく燃えている

あそこを目指していたはずなのだ
臍の下あたりで、眼球のうしろで
わたしのいつ果てるかわからない
火が求めている、高くも低くもない

わたしの先に常にあり
水の中にも夢の中にも泥の中にも
遠い火はたしかにあるのだ

ある時はオリオン座であり
ある時は街頭の歌うたいの喉の震え
ある時はゴミ捨て場の壊れた人形

ある時は父であったり母であったり
兄であったりする、時に憎しみさえ
抱くというのに愛して止まないのだ

病床に伏してみる天井の先の先の空を
飛ぶ鳥の羽根の一枚に宿る火をみつめ
身の内にある火が燃え盛る夜に熱い息を
吐き出す、火が逆巻く、痛みが、泣いて
いる、死に向かっていく細胞の燃焼が
遠い火を求めている、灰になっていく

しかし、遠い火をみつめて
のばした手は静かに震えて
まだ灰にならない爪先が
夜明けを指差していた


自由詩 遠い火をみつめて Copyright 帆場蔵人 2019-05-19 19:56:02縦
notebook Home 戻る  過去 未来