死んだ後の世界 生まれる前の世界
こたきひろし

神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい
なんて
何の根拠もない噂が巷にながれていた

俺はそのころ旅の商人
毒蛇の
乾燥した肝を売りながら
旅していた

肝は行く先々でよく売れたが
売り切れたりはしなかった
だから
俺の旅はいっこうに終わらなかった

神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい
なんて
何の根拠もない噂が巷にながれていた

私は
そのころ旅の娼婦
おんなの春を売りながら
旅していた

体は行く先々で
よく買われたが
いっこうに若さは失わなかった

だから
私の旅はいっこうに終わらなかった

神々の涎の一滴から人間は誕生したらしい
なんて
何の根拠もない噂が巷にながれていた

俺はそのころ
道端に蔓延る雑草だった
道を行き交う旅人を眺めがら
埃を被っていたが
いっこうに枯れなかった


ある日
病気の野良犬が
俺の上に倒れて死んだ

日向で野良犬は腐り
やがて骨だけになった

神々の垂らす涎が
幾多の生き物も誕生させたらしい

何の根拠もないけれど


自由詩 死んだ後の世界 生まれる前の世界 Copyright こたきひろし 2019-05-19 10:00:50
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