壁を這うワニ/即興ゴルコンダ(仮)投票対象外
こうだたけみ

 丸の内の商業施設KITTEにはインターメディアテク(以下、IMT)というミュージアムが入っていて、東大所蔵の蒐集品を無料で見ることができる。一階から六階まで吹き抜けになっているKITTEの建物。その二階の一部と三階の一部を階段でつないだ展示室は、そんなに大きくはない。しかも、同じフロアに商業テナントが入っているから、一般的な博物館と違ってしんとした静けさもない。この、誰でも入れるのになぜかあまり人気のない、けれども少しくらいの私語なら許されるゆるい空間が私は好きで、東京駅付近で時間を潰す必要のある場合は必ずと言っていいほど訪れる。
 ゴールデンウィークの真ん中あたりに、大学の頃からの友人と有楽町のプラネタリウムを見に行くことになった。休日は混み具合が読めないので、三時間前に行ってチケットを買った。さて、お茶をするだけでは潰せそうにない三時間。私は迷わず「あそこ行こうよ」と言った。IMTだ。
 隣を歩く友人は、目鼻立ちがはっきりしていてゆるくパーマをかけた明るい色のロングヘア。花柄のワンピースをひらりと一枚で着る。もちろん足元はパンプス。女子力が抜群に高い。
 一方の私は、職場の後輩に「遠くから見ると星野源タイプの男前」と言われるほどの短い黒髪ショート。顔は、何をか言わんや。体型隠しのシャツワンピースにスキニーパンツが欠かせない。足元はいつだってスニーカー。
 ぱっと見、正反対な彼女と私。友人関係が十五年以上つづいているなんて不思議だ、と自分でも思う。
 行動力があって新しい物好きな友人は、IMT行きが若干つまらないらしい。長年の付き合いだ。テンションの上がらなさでわかる。プラネタリウムに誘ったのは自分だから、まあ付き合ってやるか。そんな感じ。
 私は、好きなものは飽きるまでリピートするタイプ。だいたい半年ぶりに行くIMTにとてもワクワクしていた。
 休日のIMTは、さすがに普段より人が多かった。すぐに展示室へ向かおうとする私を友人が引き止めて言う。
「私、これ好きなんだよね」
 入口を入って左手。下のフロアと上のフロアをつなぐ階段の壁に、まるで這うように展示された大きなワニ。
「うん、私もこれ好き!」
 彼女と私はまったく違う。けれど、少なくともこの壁を這うワニがつないでくれる。それでは改めて、展示室に所狭しと並べられた骨格標本に挨拶を。


散文(批評随筆小説等) 壁を這うワニ/即興ゴルコンダ(仮)投票対象外 Copyright こうだたけみ 2019-05-15 21:10:44
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