やむにやまれず
ただのみきや

枝も撓む薄紅の八重咲を
愛撫する風のように
目を瞑って
髪を 頬を
蒼白い胸元をすべり
いつのまにか
熟した果実の内側
水辺のあずまやで
冷たい肌を絡め合う
二匹の蛇
ずっと昔に滅んだ国の
忘れ去られた神話
囚われて
瞼を縫った
降り積む花びら
肌を苛む
くちびる 焔
ああ いま
昼も夜も無い水底
しな垂れた枝先に
河面は引き攣り
後から後から生と死を
分かつことなく泡立たせ
白く果てる
果てしもない秘め事の
氾濫の兆し
光は綻び
傷つけることもなく跳ねた
この愛の屈折率



            《やむにやまれず:2019年5月15日》








自由詩 やむにやまれず Copyright ただのみきや 2019-05-15 19:38:15縦
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