石の顔
服部 剛

自閉症をもつ息子の
小さな手を引いて
特別支援学校のバス停まで
いつもの道を歩く

――はやあるきっ、はやあるきっ
かけ声と共に
到着時間まで、あと3分
息子が地べたに這いつくばり
坐っては起こし、坐っては起こし

遠くから
青いバスがやってくる
乗車口で添乗員さんに、リュックを渡す
よいしょっと、息子をあずける
(無垢な笑顔が、パパをふり返る)
子どもたちを乗せた
登校バスは小さくなってゆき…

見送るママやパパと
ひと息の安堵を交わし
それぞれの日常へ、戻る

    *

知的ハンディを抱える子どもを育てる
日々の場面の現実は
僕の小さな脳では計れないまま
体力を消耗している

けれど
今朝は家に戻る通り道で
はたと立ち止まる
(僕に、笑いかけていた)
アスファルトに埋もれ
にこやかな目の曲線の2つある
半月型の石の横顔が
 
(遠い背後の頭上に昇る、朝の太陽は
 できの悪いパパの背中を照らしていた)

少しだけ身を軽くしたママとパパが
せちがらい世の日常にそっと隠れた
石の顔と出逢えますように  






自由詩 石の顔 Copyright 服部 剛 2019-05-14 22:39:36
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