自慰
こたきひろし

ブレーキがまだついてなかったに違いなかった
人間を制御するブレーキが

人前を憚らず
女のこの幼児が自分の下着の中に手を入れて触っていた
恍惚の表情を浮かべながら

若い母親は立ち話をしていた
僕の母親と
二人は話につい夢中になって気づいてなかった

それはほんの短い間だったかもしれないが
一瞬に濁流となって私のなかに流れ込み
その後の私を支配した

小学校にあがったばかりの私だけがそれを見ていた
そしてその時女のこは僕の方を見ながらしていた

女のこの母親も
私の母親も共に農婦だった
真夏の昼下がり
二人はいい色に日焼けしていて汗をかいていた

私の母親と違い
女のこの母親は都会から嫁いで来ていて
その均整のとれた体と美しい顔立ちは
農家のお嫁さんには異質だった

私は小学校低学年ながら
その母親から発散されていた
女の人の性の芳香に刺激されない訳にはいかなかった

すべては遠い日の記憶たったが
鮮明に刻印されていた

私は
あの日あの時の光景を思い出して
性的興奮し
何度
自慰をしただろうか

あの淫靡な空気が脳裏に蘇り
絶頂に達した時
脳内に分泌される麻薬の成分がもたらすと言う快感

癖になってやめられなくなった

そこには
人間の愛なんて存在しない
本能に導かれた
獣の世界

神が与えた
生き物のよろこび

しかし
それは人として
どうしても隠さなければならない
条理

だけど
極めて自然な行為
何一つ恥じる事はない


自由詩 自慰 Copyright こたきひろし 2019-05-12 06:24:01
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