灯台守の話
相田 九龍

岬には灯台があった
高さはそれほどないが、白く野太く、確かな存在感で岬にあった

灯台には灯台守がいた
彼は正しくは灯台守ではない
しかし、灯台に住み着き、彼は彼の守りたいものを守っていた

風が強い日、彼は外に出て遠くを眺める
蓄えた髭や髪が風になびき
目を細め、じっと遠くを見つめている

彼が灯台にいるには理由があった
彼は灯台にいるしかなかった
白く野太い灯台が彼を守っているようでもあった
風が強くなると、岬で荒潮が弾けた

灯台はそり立つ崖の上に立っていた
弾ける波しぶきが灯台まで届くこともあった
彼には忘れてはいけない歌があったが、うまく思い出せなくなった
その歌があれば、どれだけ今の彼を慰めただろう

灯台の周りには、緑が敷きつめられていた
ところどころ岩が露出しており、そこに腰掛けて休むこともできた
彼が風の音に耳をすますと、歌が断片的に蘇った
しかし寝床につくと、またすっかり忘れてしまうのだった

彼は人恋しさを感じなくなっていた
その無感覚が彼を守った
そんなとき灯台と一体になれた気がした
彼は夜になると、アルコールランプに火を点けた

彼の故郷にも海があった
灯台のある岬のように、風が強く吹くと波が弾けた
一緒に住む家族はそれほど多くなかった
母と姉と、留守がちな父親
この生活で蓄えた髭は、父親の髭によく似ていた

嵐の日は、誇りを持って灯台を見守った
そんなときこそ、灯りを絶やしてはいけない
岬の向こうに船があるかは分からない
それでも誇りを持って、灯台を見守った

嵐が明けると、彼は町に出た
水や食料、ランプの燃料を買い足し
また灯台に戻った







自由詩 灯台守の話 Copyright 相田 九龍 2019-05-11 16:42:49
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