火原 けだもの
木立 悟





涙を拭いた紙で酒を拭く
鳥か四ツ足か分からぬものが覗き込む
切りつづけ 喰いつづけ
泣きつづけ 呑みつづける


鳥の羽を持つ虫が
命の行方の地図を照らし
在るはずの無い径を照らす
夜の夜の夜の奥まで


雪の声は地の虹と散り
時は失くなり 戻り
一列となり
冬の虹を集めはじめる


結ぶ手もなく踊る
無数の腕が踊る
踊る 踊る
皆ひとりで踊る


呼びつづけている
滴が
痛いほど高みから
落ちつづけている


坂につづく細い橋
ああひとりではだめだ
すべてを空へ帰すものの声が
歩みつづける背に降りそそぐ


涙より速く星は流れ
声より速くけだものは来る
波が浪になる夜を裂き
径の端で毛を逆立てる


これがおまえ これがおまえだ
風が軋り 通り過ぎる
火花 火花
原の闇から打ち寄せる


















自由詩 火原 けだもの Copyright 木立 悟 2019-05-11 02:29:46
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