「夢見る頃を過ぎても」
白砂一樹

路傍に夢はしゃがみ込み 動こうとはしない
いつだって道の傍の暗がりに そいつは居たんだ
俺は停まって居る …永遠に停まっているのか、俺は?
あの90年代に於いて 俺に夢はなかった
俺は「独りぼっちのお祭り」に酔い痴れて 素面だったためしがなかった
数多くの人々が俺の周りを通過して行った 俺は何も気付かなかった
俺は夢見心地だったが 俺に夢はなかった
見上げる空は青かったが 俺の心は黒かった
俺は死んでいたが 俺は「ふっかつのじゅもん」を唱えなかった
生ける屍たる俺は饒舌だった しかし全ては空念仏だった
眠りのさなかに見る夢だけが夢だった

今俺は夢を見ている ずっとずっと遠い夢を見ている
夢見る頃を過ぎて初めて俺は夢を見ている
俺は今生きている 俺は今夢が叶わぬ苦しさを知っている
俺は今生きている 体と心に痛みを感じている
生きるということは苦しむことだ 苦しむということは走るということだ …夢に向かってね

夢はしゃがみ込んでいるのにも疲れ果てたようだ
夢はすくっと立ち上がる 夢は俄然走り始める …己の老いを自覚もせずに
俺は今遙か彼方に居る人に狂熱的に呼びかける 「生きていてくれ!」「生きていてくれ!」と痛烈に連呼する 喉が潰れる迄 俺の生が燃え尽きる迄 俺は叫び続ける 永遠迄ね
夢想家の独り言と言われても構わない 俺は俺の道を往く …君は君の道を往ったらいいさ
そして俺の道と君の道が交わった時 奇跡は起こるに違いない!


「ああ俺はあの頃の俺よりずっと若い/夢見る頃を過ぎても」





自由詩 「夢見る頃を過ぎても」 Copyright 白砂一樹 2019-05-10 04:53:55
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