【 暗黙の了解 】
豊嶋祐匠

  
  
  
  僕は
  
  
  駅で列車を待ち受ける
  
  サラリーマンを見ても
  
  線路に突き落としたりはしない。
  
  
  スーパーの工具売り場で
  
  ナイフの光に誘惑されても
  
  通りすがりの脇腹を刺したりはしない。
  
  
  電車の座席で
  
  大きなお腹の妊婦が笑っていても
  
  けして蹴り上げたりはしない。
  
  
  街を走る車の
  
  クラクションに腹を立てても
  
  タイヤの空気を抜いて満足はしない。
  
  
  老人に負ける事は無いと
  
  自信を持って言えたとしても
  
  バッグを取り上げて逃げたりはしない。
  
  
  
  
  ましてや
  
  旅客機の操縦桿を握り締めて
  
  高いビルに飛び込んだりはしないし
  
  
  ビニール袋に入った
  
  青い薬品をトイレに捨てても
  
  傘の先で突いて破いたりもしない。
  
  
  少年を抜け殻にして
  
  その瞳に青い空が映り込んでも
  
  その空まで奪ってしまう事はしない。
  
  
  
  
  
  僕が
  
  幼かった頃の通知表には
  
  5段階評価の1ばかりが並んでいた。
  
  
  先生から
  
  君はやれば出来る子供だと
  
  太鼓判を押されてはいたけれど
  
    
  そんな嘘っぱちの囁きに
  
  たった一度も従った事は無かった。
  
  
  
  
  
  僕は見ての通り
  
  人の教えに耳を貸さなかったし
  
  
  例えその原因が
  
  今の暮らしを作り上げたとしても
  
  
  やってはならない
  
  暗黙の了解だけは踏み越えないし
  
  これからも踏み越えたりはしないよ。
  
  
  
  
  
  世の中は
  
  他人に従う成功者で溢れている。
  
  
  訓えと服従が
  
  見せかけの正義を
  
  教えてくれるかも知れない。
  
  
  
  
  
  でも、暗黙の了解を
  
  語らない幸せをどれだけ信じても
  
  
  君たちが心から満たされる日が
  
  やって来る事は絶対に無いと、僕には解るよ。
  
  
  
  
  
  
  
  
初作 2004.3.12
  
  


自由詩 【 暗黙の了解 】 Copyright 豊嶋祐匠 2019-05-09 00:34:55
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