だから
高林 光

三日ぶりに入ったその部屋であなたは
やはり窓のそばに座っていて
あなたの世界は四階の窓から見える
この建物の北側のビル群と
真下を通る車の音
時折近づいてくる救急車まで

首だけをこちらに向けて私に気づいたあと
また窓の外を見つめて
夕方から
雨が降るかもしれない
とつぶやく
窓の外は夏の最後の晴れ間で
雨の気配なんて
少しも感じられないのに
 
毎日見ているから
ほら、あのビルの向こうが少し暗いから
だから
と私を見て言ったあと
あなたはまた窓の外に視線をうつして
ずっとここにいるんだから
何も関係ないのに
と少し笑った
  
わかったつもりになっている
たくさんのことが実は
何もわかっていないんじゃないかと
あのビルの向こうも
窓のそばに座るあなたも
未知の本当は私の
手の届かないところに
あるような気がして


   (初出 『グラフ旭川』2019年5月号)


自由詩 だから Copyright 高林 光 2019-05-08 09:17:46縦
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