半球半身
ああああ

 旅行者だったぼくはなぞなぞに答えて彼女と結婚することにした。国王は跡取りがとびきりの知恵者でなければならないと考えているらしく、なぞなぞに回答したものにお姫様と結婚する権利を与えるとお触れを出した(ただし正解できなかった場合は首を切る)。
「甘くて苦くて怖いもの、なんだ」
「熊の胆から出てきた蜂蜜」
 ぼくは見事なぞなぞに正解し、物語はここで終わる。二人はいつまでも幸せに暮らす。しかしなにごとにつけ行間というのはあるもので、幸せな暮らしに至るまでにはほんの短い間、些細な行き違いがある。ここではこの物語の小さな隙間について語ることにする。

 ぼくは無事彼女と暮らし始めたが、彼女の宗教では自慰も避妊も禁止されているらしく、そのせいでぼくまで自慰も避妊も禁止されてしまった。精液を土にこぼすことが罪だとしても、古くなった精子はなんらかの形で結局は排泄されると思うが、それはいいのかという意味のことを聞いたら「それはいいの」と即答された。ぼくとしては反語的な質問のつもりだったので、肯定されてしまうと従うしかない。

 僕が膣内に射精したせいで、彼女は成長しない赤ちゃんを身ごもり続ける。彼女は肉を食べないから、タンパク質の不足した胎児は食い合って死に、月に一度くらいのペースで排泄される。

 彼女がもうかれこれ3年半も妊娠し続けているとき、何者かがマスコミにリークする。成長しない胎児を身ごもり続けるお姫様のゴシップは民衆のハートを捉え、先の大戦の呪いのせいだとかよそ者を配偶者に迎えたせいだとか、様々な憶測が飛び交う。事態に気づいた国王は、あのなぞなぞを制作した物知り博士を再び呼びつける。
「よく来てくれた博士よ。成長しない赤ちゃんを何年も身ごもり続けるなんて、そんなことがあるだろうか」
「ないでしょう。彼女は妊娠していません」
「しかし、当の本人が妊娠していると申しておる」
「おそらく、跡継ぎを産まなければならないというプレッシャーが原因で、そのような妄想にとりつかれているのでしょう」
物知り博士はたちどころに真相を言い当てた。

 ぼくと彼女は不妊治療を受けることになった。不妊の原因は彼女ではなくぼくにあった。ぼくの精子は半球半身という状態、要するにすべての精虫が右半身か左半身しか持っていない状態になっており、女性を妊娠させる能力がないという。

 それ以来ぼくはすっかり安心してしまった。実はそれまで、ぼくの性器は満足に勃起することがなく、勃っても挿入すると萎えてしまう状態だったので、手で何度もこすって精液を吐き出す瞬間に彼女の膣に入れるという不恰好な性交を行っていたのだが、妊娠の不安から開放されたぼくは普通の人がよくやるように腰を振って射精することができるようになった。


散文(批評随筆小説等) 半球半身 Copyright ああああ 2019-05-06 23:31:12
notebook Home 戻る  過去 未来