『ぼくと猫のフーの冒険』
beebee

 ぼくが居間のコタツで遊んでいると、ママが台所からやって来て
言いました。
「お外で遊んでらっしゃいな、寝てしまうわうよ。」
「嫌だよ、外は寒いから。」とぼくが答えました。
「レゴで探検隊ごっこしているんだ。」ぼくは作りかけの動物たち
を見せました。
「いつの間にか寝てしまうわ。この間もここでオネショしたじゃな
い。」と、ママは厳しい声で言いました。飼い猫のフーがママの後
ろからついて来て、ウンウンと首を縦に振って見せました。ぼくは
たまに失敗するのです。でも猫のフーだって、オシッコ・シートか
らはみ出してするクセに、ひどい奴です。フーが寄って来て、コタ
ツ布団に入ろうとしました。
「だって寒いもの。」とぼくは口を尖らせました。
 ぼくは近くに来たフーの尻尾を掴もうとして手を伸ばしました。
フーは素早く身をかわすと、ぼくの作ったレゴの動物たちをなぎ倒
しながら、台所の方へ逃げてしまいました。
「早く出なさい。」とママが言います。
「嫌だ、嫌だ。コタツの中を探検だ。」と言いながら、ぼくはコタ
ツ布団に潜り込みました。コタツの中は、赤外線ランプの光で真っ
赤です。むっとするような、暖かい空気がいっぱいでした。息がつ
まりそうです。ぼくは嘘寝をして、布団から両足を外へ出したまま、
じっと眠ったふりをして動かなくなりました。
「しょうがないわね。」とママは呆れて、台所へ返って行きました。
 しばらくすると、本当にぬくぬくして来て、やっぱりぼくは眠く
なって来ました。すると、布団の向こう側にフーが頭を突っ込んで
来て、むっくりとフーの顔が見えました。
「こいつ。」とぼくは言いながら、フーを捕まえようとさらに奥へ
奥へもぐり込ん行きました。逃げようとするフーの尻尾が、赤外線
ランプの赤い光の中で揺れます。ぼくはフーの尻尾を掴かもうと、
必死で手を伸ばしました。その途端です。
「うわっ、ひぇー。」ぼくは叫び声を上げながら、暗い穴に落ちて
しまいました。奥にもぐり過ぎて、掘りコタツの穴に落ちたのでし
ょう。目の前が真っ暗になりました。ぼくは両手を振り回し、叫び
声を上げながら落ちて行きました。トンネルの中をくるくる回りな
がら落ちて行くと、底は思ったよりも深くて、暗くて、ふかふかし
ていました。とてもコタツの中とは思えません。しかも不思議なこ
とに、底について見上げると、なんと穴から冬空が見えたのでした。
 ぼくは手と足を突っ張りながらよじ登り、何とか縁に捕まって、
穴から這い出ました。そこは冬の庭だったのです。真っ青な空に太
陽が大きく輝いています。ヒューと冷たい風が吹いて来て、思わず
セーターの首元を抑えました。
「こっち、こっち。」
 猫のフーが穴の向こう側から声をかけて来ました。よく見ると、
一回り大きくなって、首も太い立派なオス猫になっていました。
「冒険の国へようこそ。他の動物たちを探しに行こうよ。」と言い
ます。
「ちょっと、待ってよ。」
 ぼくは慌てていて、フーが普通に言葉を話しているのも気がつき
ませんでした。
 しばらく歩いていると、草むらの奥から一本の足が出ていました。
大きい肉球が見えます。ぼくは指先でつついて見ました。撫でて見
ました。肉球を指で挟んで、くにくにして見ました。面白い! 持
ち上げて自分の鼻の頭に当てて、なでなでして見ました。
「くすくす、くすくす。やめろよ。」と大きな白い犬が草むらから
出て来ました。
「犬くん、見つけた。」とぼくが言いました。
「冒険の仲間にしてあげるよ。」と猫のフーも言いました。
 大きな白い犬は、それを聞くと、一緒について来ることにしまし
た。
 しばらく歩いていると、木の枝が上から伸びていました。通り過
ぎようとして、何かが頬をこすりました。
「ありゃ、なんだ。何かこすったぞ。」とぼくが言いました。
「ありゃ、なんだ。何かこすったぞ。」と別の声が枝の上からしま
した。
 よく見ると青い綺麗な羽根が出ていたのです。
「えっ、おもしろい。」とぼくが言いました。
「えっ、おもしろい。」とまた別の声が言いました。ぼくが話すと
言葉を繰り返してきます。ぼくはその羽根を軽く引っ張って見まし
た。
「いてっ。」と声は言うと、葉っぱと葉っぱの間から大きなくちば
しが出て来て、コツンとぼくの頭をこづきました。
「痛い。」と今度はぼくが言うと、
「いたい、だろ。」と別の声が言いました。葉っぱの間から出て来
たのは、青いオウムでした。
「オウムくん、見つけた。」とぼくが言うと、
「綺麗なオウムさんを見つけた、でしょ。」と青いオウムが言いま
した。
「冒険の仲間にしてあげるよ。」と猫のフーも言いました。
 オウムはぼくの肩に停まると、ぼくは探検隊の隊長らしくみえま
した。
「じゃ、出発、出発。」とぼくは言いました。
「じゃ、出発、出発。」とオウムが言いました。
 またしばらく行くと、頭上からまだらの紐が降りていました。ぼ
くは手で握って見ました。毛が立ってふわふわしています。肩に乗
っていた青いオウムがくちばしでくわえて、ぶら下がりました。
「うう、うう。」と声がして、今度は、だらんとぶら下がって二本
の足が降りて来ました。やっぱり柔らかそうな肉球があったので、
ぼくは自分の閉じた両目に当てて、スリスリしました。まぶたの上
をスベスベした暖かい肉球が擦れて、とても気持ちが良いのです。
「やめろ、やめろ、くすぐったい。」
 枝を搔きわけると、木の幹ににまたがって、ヒョウがいました。
「ヒョウくん、見つけた。」とぼくが言いました。
「冒険の仲間にしてあげるよ。」と猫のフーが言いました。
 するとヒョウが大きく口を開けて言いました。
「そしたらみんなをたべてあげるよ。」
 僕たちはこわいと一目散に逃げました。
 走って逃げて行くと、小さな池に出ました。水面には水草が浮か
んで、風に揺られています。
「休憩、休憩しよう。」と猫のフーが言いました。
「ここまで来れば、大丈夫。」と白い犬が言いました。
「ここまで来れば、大丈夫。」と肩に乗ったオウムも言いました。
 池の水辺に座って見ていると、水面を小さな影が泳いでいます。
「いるいる。」とみんなで覗き込むと、池の水草の陰からピュっと、
水鉄砲が飛んで来ました。
「ひゃぁ、びっくりした。」と、見ていると、小さな赤い魚が水面
から飛び跳ねました。
「なんだぁ。びっくり。」とオウムが言いました。
 猫のフーがもう一度覗き込むと、また、ピュッと、水鉄砲が飛ん
で来て、今度はフーの鼻に当たりました。ひゃ、っとフーが小さく
悲鳴を上げると、また小さな赤い魚が飛び跳ねながら
「へへ、やるか。」と体をくねらせながら、得意げに笑いました。
 猫のフーは手を振って、空中で魚を捕まえ用としましたが、上手
くいきません。またしても、覗き込んだ拍子に、ピュッと、水鉄砲
にやられてしまいました。
「こら、まて。」と池の周りを走り回りますが、どうしようもあり
ません。追いかければ追いかけるほど、ピュッと、水鉄砲にやられ
てしまいます。
「ちょっと、フー、落ち着いて。」と白い犬が言いますが、聞きま
せん。
「そこで待っていろよ。」とフーは追いかけました。
「へへん。」と小さな赤い魚が飛び跳ねます。猫のフーは我慢でき
ずに、池に飛び込もうとしました。
「待って、待ってよ。」ぼくは猫のフーの尻尾を掴んで、引き止め
ようとしましたが、勢いあまって一緒に水の中へ落ちてしまいまし
た。
「きゃー。」水の中でくるくる回りながら声を上げました。底の方
にに暗い赤い穴が見えました。どんどん底に向かって沈んでいきま
す。掴んだ尻尾を離さないように握りながら、一生懸命水をかくと、
やっと底の穴を潜り抜けて、水面に上がることができました。一面
真っ赤なライトに光った掘りごたつの中でした。
「あら、目が覚めた。」とぼくが必死で布団から這い出ると、ママ
が上から見下ろしています。
「違う、違う、これは池の水だよ。」とぼくが言うと、隣で猫のフ
ーも「お母さん、これは池の水です。」とぼくの味方をしてくれま
した。なんて良い奴なんだろうと、ぼくは猫のフーの太い首を抱き
しめながら、
「お前は良い奴だったんだね。僕たちは親友だよ。」と言いました。
でも、すると、猫のフーはニヤリと笑って言うのでした。
「お母さん、やっぱり嘘です。これはオネショです。」と笑ってい
ます。
「あっ、ひどい、騙したな。いい奴だと思ったのに。」とぼくが言
うと、
「何を寝ぼけているのよ。早く出なさい。晩御飯の支度を手伝って
ちょうだい。」とママは顔を近づけて覗き混んできます。
「えっ。」と今度は本当に気がつきました。ぼくにしがみつかれて、
猫のフーが嫌がって暴れています。よく見ると、こたつ布団は別に
濡れていませんでした。
「あれ、あれ、こっちが夢か。」とぼくは安心しました。ぼくはフ
ーの首を離して自由にしてやりました。フーは怒って台所へ走って
行きました。
「うーん、ぼくたち探検隊の仲間じゃないか。」



散文(批評随筆小説等) 『ぼくと猫のフーの冒険』 Copyright beebee 2019-05-05 14:31:55
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