名も無き森
ただのみきや

白濁した光の網から翅の大きな蝶が逃れるように
わたしたちは木陰
まだ しっとりした眼で
深みを増した色彩を揺らめかす粒子の渦を見ている
あなたはそよ風にくすぐられる若木のように囁いた
虻よりも小さく
こんな時ふと奇妙な言葉がわたしを脱ぎ捨てる

見つめ合うこともなく
わたしたちは互いの中に自分を見る
一欠けらの反射に栓は抜け
欲望の渦は中心へとどこまでも捻じれながら
下って往く 視線だけは迷い出て
のたうちまわり 虚像に縋る
夏の蔓草のよう ゆっくりと確実に締め上げる

時計が青白い炎に包まれた
永遠のような昼
わたしたちは二羽の小鳥のよう
意味もない囁きだけで心を搦め合い
押し寄せる理と利で武装した軍隊に囲まれて
この名も無き森の中
楽園の匂いを互いの声に



                《名も無き森:2019年5月5日》








自由詩 名も無き森 Copyright ただのみきや 2019-05-05 10:38:31
notebook Home 戻る  過去 未来