眩しくて一瞬前が見えなくなった
こたきひろし

夜道
突然何かがヘッドライトに浮かび上がった
猫だと直感した
避ける暇もなくブレーキを踏む間もなかった
瞬間、タイヤが踏んで ぐしゃり 鈍い感触があった

そのまま通り過ぎてしまった
ごめん
ハンドル握りながら思わず声に出してしまった

ごめん ですむわけがない
もしかしたら
もしかしなくても
後続の車のタイヤに連続して轢かれたに違いない

どうかした?
誰に謝っているの?
助手席の女友達が訊いてきた
彼女は何も見ず 気づいてもいない様子だった
若者は咄嗟に答えを飲み込んだ
何でもないよ 気にしないで
そんな嘘を口にしてしまった

若者の頭のなかは一つの事でいっぱいだった
車は国道を走っていた 一刻も早く車をモーテルに停めてしまいたかった
そして女友達をどうにかしてしまいたかった
それはお互いが口には出さないけれど暗黙の了解があると
勝手に決めつけていた

猫の生死に関わってなどいられない
猫の生死になんて関わってなどいられない
のだ



自由詩 眩しくて一瞬前が見えなくなった Copyright こたきひろし 2019-05-05 00:21:40
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