そらの椅子
帆場蔵人

その椅子はどこにあるのですか?

木製のベンチに根ざしたみたいな
ひょろ長い老人にたずねると
そら、にとぽつり言葉を置いて
眼球をぐるり、と回して黙りこむ

そら、空、いや宇宙だろうか
その椅子に誰が座るのだろう
とても永いあいだ空だという

その椅子にいったい
誰が座っていたというのだろう

ひょろ長い老人の微笑む皺のなか
その誰かがひょい、と顔をだす
老人の愛した誰かだろうか?
あるいは憎んだ誰かだろうか?

それとも、それとも、それとも……

話してないことも話したことも
あの皺には刻まれているだろう

その数だけ椅子があらゆる形や大きさ
重さでふわふわと漂っていて、やがて
そこにはぼくもひょろ長い老人もいて

椅子は椅子としてあらゆるものを
受け入れながら雲のように形を変えて
皆んな誰かの記憶のなか
そらの椅子に腰かけ漂っている


自由詩 そらの椅子 Copyright 帆場蔵人 2019-04-29 02:27:07
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