結露凍結

無垢な滴よ
そのドアの向こうには何があると思う?
こちらとあちらが
交わらない為に生まれた
無垢な欲望よ



私の部屋には壁がない
けれど、室内にはじっとりと
危うさが飽和し
欲動に毛羽立った縄が纏わりつく。

私を留めようとしているのか。
あるいは引き摺り出そうとしているのか。

簡単に振り払える
縄は
ささやかな希望を潤ませては蒸散させる。
燃えない程度の湿り気と
泣き出さない程度の薄情さを維持して。

   * * *

人工光に照らされたテーブルの上
薄氷の小箱には蛇が一匹眠っている。
空腹さえ忘れて
己の毒牙に悶える人間を嘲笑う
夢を見ている。

   * * *

私の部屋には壁がない
だから、床からにょっきり生えている
誰にも使われないドアの内側へ
いきものの気配を
呼吸の証を
ひとつひとつ
磔刑にしていく。
私ではない誰かが望むから、

なんて
言い訳したりしてさ。

   * * *

薄氷の小箱に眠っている
蛇は
自身の牙に毒がないことを知っていた。
それから
冷えきった体が刻々と死へ向かっていることも。
氷が箱の内側へ成長していることも。


無垢な滴よ
そのドアの向こうを寒いと感じるのは何故か
考えることを放棄して
ドアの縁だけでなく鍵穴をも埋めるのかい
無垢だった欲望よ


自由詩 結露凍結 Copyright  2019-04-28 15:25:57縦
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