ミイラ男は泳げない
帆場蔵人

たくちゃんやアーくんはとても
綺麗なフォームでクロールするんだ

彼らのように泳ぎたいわけじゃない
水と愛撫し合う幸せを知りたいだけ

包帯が水を吸って絡みつく
誰もお前は認めない、という声
ただ重く、体が沈んでいく

ねぇ、なぜぼくを
こんな風に産んだのですか?

泡にしかならない
人魚姫のような
言葉たちの悲鳴

たくちゃんやアーくんはとても
綺麗なフォームでクロールするんだ

みな底の水はぼくを認めてはくれない
絡みつく包帯は歪みきった愛情
海藻みたいにゆらめき、みな底に根を張り
光る水面を見上げる日々、泳ぎたい

包帯を解けば泡になって消えてしまうのよ
みな底の水が囁いてくる、けれど……

包帯を振りほどき
不恰好に手足を伸ばせば
ぼくという輪郭が泡となり
失われていく、包帯は哀しげに
みな底でゆらめき嘆くばかり

泡と消えるまえに出会った、あなた
赤毛の水を抱きしめてぼくという輪郭は
取り戻されていく、さぁ、どこに行けばいい

わからない、けれどその迷いすら
愛しい水に抱かれながら不恰好に泳げば
幸いでしかなかった、さよなら、包帯
さよなら、始めて愛してくれたひと


自由詩 ミイラ男は泳げない Copyright 帆場蔵人 2019-04-27 01:44:50
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