夢でした
印あかり

ええ 夢です
わたしなど夢です

あなたの目にも耳にも鼻にも残らない
夢です



いちばん隅の机の上で
ちぎり絵をふたりでしました
桃のようなほっぺを寄せあっていました

ぼろぼろの虹の下であなたと手を繋ぎ
原っぱの滴を蹴散らして駆け回りました


違いに不寛容すぎたわたしたちは
互いの茎をへし折ろうとして
自分の葉っぱを巻き込んでしまうのでした

涙でなんにも見えませんでした
気がつくと 綺麗な思い出はすべて
カラスが持ち去ってしまっていました


お互い別の人に恋をしました
ふたりとも秋の蛍のような恋でした
死骸は花の袋の中に仕舞いました

翌朝 すすきの海原の中に立ち尽くし
空を仰ぐあなたに
あなたに また会いました



それから
太りすぎた夕陽をふたりで背負いながら
星の絡まる暗幕を、引き摺って歩きました

どれくらいの間 黙って歩いていたでしょう
突然訪れた朝陽を
どうしたらいいかわからず
わたしたちはこわごわ触れていました

なんにも 無かった
幸せでないということが幸せでした



ええ 夢でした
あなたなど夢でした

わたしの目に耳に鼻に
生涯続く後遺症を負わせた
夢でした



自由詩 夢でした Copyright 印あかり 2019-04-26 15:22:39
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