ある夜のともし火
帆場蔵人

灯台の灯りで煙草に火をつける
まるで灯台がチリチリと燃えるよう

灯台を吸い尽くしたら
波濤を彷徨う船たちも
みな底に攫われた悲しみも
どうやって帰ってくるのか
煙草の火をグルグルとまわして
沖に向かって叫び続ける

おぉぉぃ、
はやく、はやく、帰ってこぉい

あぁ、もう火が消える

やがて沖へ沖へと
朝が夜をひいてゆく

***

あまりにたくさんの人が悲しみで
海を埋め立ててきたのです

水平線があんなに滲むのは
埋めた物が流れ出したから

海風が吹き荒れて湿っているのも
サイレンが、海鳴りが止めどなく
痛ましく不安を駆り立てるのも
そのせいですが私には解りません

やがて津波で悲しみは
帰ってくるでしょうから
私は高台にいき眺めます

あそこの防波堤の突端でまわる
小さな灯り、誰かの悲しみに
呼びかけているのでしょうか

あゝ、もう火がきえた



自由詩 ある夜のともし火 Copyright 帆場蔵人 2019-04-26 00:44:56縦
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