叶わない愛なんて知らない(カフスボタンが落ちた砂浜で)
秋葉竹

神さまは
叶わない愛なんて知らないって言ってた

幻の夜、
カフスボタンの別れて落ちた砂浜に
砂の城がまだ崩れ切ってはいなかった

知ってる

紫の夜空に浮かぶ
白い雲が
地上に降りたい、って

みんなを愛しているから、って

あした、
あたし、
一匹の鬼女(きじょ)が
ひとりぼっちで浮かぶ雲を見る

かなた水平線の青空を見る眼には
あたたかい虹色が浮かぶ

そこにあるあたたかさとは
まるでべつの陽光を
その身に浴びることになるだろう

その風景は一幅の絵となり
いつまでも見る人の心を
しっとりと濡らしつづけることだろう

掠れた鬼女の声が

風に乗って
耳まで運ばれ

風に乗って
遠ざかって行く

ふと、
呪いかと聞き違えるほどのその声は
ただ
だれかの愛を求めたかつての鬼女の
血を吐く祈りの結晶を削りとる、
そんな
みっともない掠れ声

そこに残された恋人は
残像さえも、残さずに
風に吹かれて消え去る幻


幻の夜、
幻の人を求めたかつてのあたしの場合、

叶わない夢に打ちのめされた
びしょ濡れの異邦人の顔をして
ただ咳をする
棒立ちの影のくせに
無力な純情のくせに

叶わない愛なんて
知らない、って言ってる


そして
慰めの夜はしずかに更け行き
やさしい表情になる新しい明日が
神さまの許しのもとから始まるのだろう


神さまは
叶わない愛なんて知らない、
って言ってたんだから






自由詩 叶わない愛なんて知らない(カフスボタンが落ちた砂浜で) Copyright 秋葉竹 2019-04-25 22:22:18
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