正しい箸の持ち方
こたきひろし

正しい箸の持ち方を知らないままに育ってしまった
正しい箸の持ち方なんてあることさえ知らなかった
その認識皆無だった

正しい箸の持ち方を知らないままに人の親になってしまった
正しい箸の持ち方を我が子も知らずに育ってしまった

正しい人のおこないを
誰にも教わる事なく育ってしまった
正しい人のおこないなんて
生きていくのにどれ程役にたつのかなんて
自問自答を繰り返してきたのはたしかだが

正しい箸の持ち方を我が子に教えてあげられなかったのは
妻も私も躾をされずに育って夫婦になってしまったからだろう

ある夜
成人した娘に報告された
「彼氏から箸の持ち方咎められた。親の躾を口に出された」
私も妻も驚いて、等しくショックを受けたに違いなかった
正しい箸の持ち方なんて考えた事もない父親と母親だったのだから

親子の間に沈黙が暫くあった
そして私がそれを破った
「ごめん」
謝罪してから言い訳を口にだした
「お父さんもお母さんも教わらなかったんだ。知らなかったんだ。」
それは親と子供の連鎖だったんだ

しかし
親から子供へ
子供から
またその子供へ
正しい箸の持ち方が伝わらない事なんて
かなりの例があるだろう

正しい人のおこないは
教わらなくても自然に身につくのかもしれない

しかし正しい箸の持ち方は
そうはならない
他人に指摘されて初めて気づくものだ

正しい箸の持ち方と正しい人のおこないと
天秤にかける程
愚かではないにしても

娘は恋人と別れる結果になってしまった


自由詩 正しい箸の持ち方 Copyright こたきひろし 2019-04-24 07:11:58
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