耳鳴りがやまない
こたきひろし

耳の奥に蝉が棲んでいる
みんみん蝉だ
うるさくてかなわない

一本木が立っている
一本どころじゃない
何本も立っていた
何本の騒ぎじゃない
数えるのもいやになった

林から森になり
そのうちに密林になった

熱帯雨林の中で
獣が目を覚ました
腹を空かせたからだ

弱いものは強いものの
餌食にならなくてはならない
強いものはもっと強いものの犠牲を
強いられる

以上は
妄想の連鎖
以下は
何だろう

集合住宅の一室で殺人事件が起きた。
その部屋の住人は三十代前半の女性でまだ独身。
一人暮らしだった。
中小企業の事務職に人材派遣されていた。親元からそれほど離れてはいなくて実家でずっと同居していたが、兄が結婚しお嫁さんが実家に入ったので居場所をなくし、アパートを借りて一人で生活をはじめて間もなかった。

犯人は彼女から現金とキャッシュカードを奪った。その際脅迫して暗証番号も聞き出したらしい。
脅しただけにとどまらず暴行を加えたの後に殺害した。
衣服は着けておらず全裸の状態で発見された。
首に強く絞められたあとが残り窒息死していた。
体内には犯人の体液が残留していた。

犯人は事前に情報を得ていて計画的な犯行だったのか。それとも場当たり的な犯行だったのか。いずれにしても一人暮らしの女性を狙い、金銭を奪い同時にその性的欲求の捌け口満たす為の犯行と推測された。

犯人は捕まらなかった。
女性は真面目で大人しく、清楚な美人だった。笑うと白い歯を見せて誠実さを伺わせた。女優の誰かに似ていたが具体的な名前は思い浮かばない。
近づく男は後をたたなかったが、上手くかわされてしまい、
その様子から決まった男がいるのだろうと周囲から噂されていた。
しかし男の存在は不明だった。

彼は事件の夜に隣室から男女の声を聞いた。隣が女性の一人暮しであることは知っていた。男が出入りしても何の不思議もない。が、隣に男が来るのはその夜がはじめてだった。
以前から彼は隣に強い関心を持っていた。
健康で正常に作動する男なら女の一人暮しに関心は当然持つだろう。
彼もまた独身の一人暮らしだった。付き合う女もいないから、その性的な衝動に歯止めがかからなくなる事もある。

夜中の一時近くなってしまった。
明日の仕事に差し支えるので、この辺でおひらきにしようね。


自由詩 耳鳴りがやまない Copyright こたきひろし 2019-04-23 00:32:53
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