人さらい
たもつ

人さらいは人をさらったことがない
これからもさらう予定がない
けれど人さらいは人さらい
それは何の比喩でもなく
人さらいが人さらいであるということだ
何故人さらいは人さらいなのか
生まれたときには既に人さらいだった人さらいは
生まれながらにして真正の人さらい
誰が名付けたのか
その名に何が期待されているのか
人さらいは知らない
けれど人をさらったことがない人さらいは
これからも人をさらわない
人さらいが歯をみがく
人さらいがスキャットで歌う
人さらいが西の空を見る
それらはすべて人さらいという名前に何の関係もない行為である
が主語はいつでも人さらいであるところの人さらい
によって行われている
ああ、人さらいの濁流が押し寄せてくる
人さらいは人さらいに溺れ
人さらいは人さらいの遠くを知る
それでも気を取り直し
人さらい、春の街を走る
人さらい、転ぶ




自由詩 人さらい Copyright たもつ 2005-03-30 22:21:54縦
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