空き部屋
墨晶

          n'est plus l'impromptu, déjà


 一階の角部屋を覗きに行く

 カーテンのない窓から室内がよく見える

 六畳の板の間の隅に

 サタケさんが茹で海老のような格好で寝ている

 やがてあくびをしながら起き上がり

 ボサボサの長髪を掻き上げると

 わたしに気づいて

「 よう 」と手をあげ 疲れた目で笑う

 そのまま

 写真のように動きを止めたサタケさんは

 透明になって消える

 いるときもいないときもあった

 新しい入居者が住み始めた

 もう覗きには行かない
 
 
 


自由詩 空き部屋 Copyright 墨晶 2019-04-21 01:15:56縦
notebook Home 戻る  過去 未来