屋根の上にはソーラパネルなんてなかった時代に
こたきひろし

空のてっぺんあたりにお日様が昇る
暑いなんてもんじゃない
熱いんだから

夏が真っ盛りだ
八月
男は上半身裸で赤銅色をしていた
女は着ていたが乳房の形が浮き上がって見えた
夫婦は二人とも野良着よ
百姓だからさ

葉たばこを畑で作ってた
畑で収穫した
煙草の原料になる青い葉は一枚一枚藁の縄に挟み込むんだ
気が遠くなるような大変な作業過程が終わるとそれから天日干しだ
夏の太陽で乾かして乾かしてを毎日繰り返すのさ
干し上がって茶色になるまでさ

だけど夏の天気は変わりやすいから
いつも空模様とにらめっこさ
雲色があやしくなってきたら
一雨くる前に
死に物狂いで駆け回り
夫婦して乾燥場に取り込むのさ

見た目に人間のやる仕事じゃないな

家は粗末な藁屋根の家だった
夫婦の子供はいつも腹を空かせていた
葉たばこの生産はたいした収入にはならなかったが
貴重な現金収入になった
もし
それがなくなったら
家族は多分生きていけなくなっていた
俺は多分この世からいなくなっていた

昭和の三十年代の頃の話さ

俺は昭和平成
そして令和だっけ
三代を生き延びていた

父親もお袋も
とっくにおっちんじまったけどな


自由詩 屋根の上にはソーラパネルなんてなかった時代に Copyright こたきひろし 2019-04-20 05:04:23
notebook Home 戻る  過去 未来