旅人の石
渚鳥

1.
買ったばかりの鞄に縫いつけられていたロゴを鋏で切るとき
海沿いの坂を上るとき
痛みを覚えた数だけ
報われるわけではないのは知っている
一部を忘れて一部を忘れないで、拗れてゆくのは自分の方なのだと目を伏せる

棄てた贈り物たちは思い出したら最後、身から出た錆を踏んで空を仰いでいる
少しだけ息をさせて
桜が散るまで
身体中を駆け巡る言葉の蜜、
青空から生まれた、新しい肩で
こちらを向いている誰かに気づいた
それから喉がカラカラで
胸の中のガラスの時計、林檎色が揺れて
ぼくは同じ目にもう一度突き刺されてもいいのだ

共振されない叫びを叫ばずどう扱えば良かったのでしょう
押し殺した結果として神経は干からびたでしょうか
いいえ悲しみは悲しみのままで
そう
遅れて後ろを歩くぼくがもし何かを言いそうになったら
そんなことは誰も知らないと嘲笑っていいから
ぼくを許さないで

2.
愛すべき人、孤独な人
静かな情熱そのもののようにどこへでも出掛けてしまう貴方は手強いです
けれど貴方が微笑み返してくれるのなら
ぼくも微笑みながら
あいしていると打ち明ける
今ぼくの胸が満たされ温かですから
旅人の石を貴方にあげようと思うのです



自由詩 旅人の石 Copyright 渚鳥 2019-04-18 23:36:07
notebook Home 戻る  過去 未来