宿り木の元で
由木名緒美

からだを崩して
水の音が静かに静かに
重力に逆らい天上へとそそぐ

赤ん坊がボールの中で宙返りをしている
老婆は手編みのベストを厳かにまとって
庭木は樹海の水脈を眩しげに浴びる

洞穴の静寂 宮殿の潤沢
懺悔室の質素さ
楽園さえをも真似る窓辺のアパートで
古い栞を紐解けば
物語は熱い血潮を帯びて秒針を逆戻る

耳を澄ませば青空の滴る音がする
一粒残らず掬って
少しも濡れずにはばたこう
還るべき場所はすぐそこに

あなたの還る母体なのです
あなたの発つ棺となるのです
その毛細血管を編み上げる針先で
あなたのふっくらとした踵の肌色まで
寸分違わずに編み上げよう

羊を裸にしながら私たちは夢を紡ぐ
大地を押しのけながら若木は幹を穿つ
破り千切り生きるすべてのものを
この胸が抱きかかえる時
切り裂かれる痛みがあなたと調和するのなら

目覚める時も
眠る時も
私はあなたの
あなたは私の身代りとなる
二つが一つに結ばれることは
とても非生産的なことだけれど
そこから生命は産声をあげるのだから不思議だ
いつかアダムとイヴが二人きりになるまで
私達は結合と滅亡を繰り返して
生命の賛歌を暗唱していく














自由詩 宿り木の元で Copyright 由木名緒美 2019-04-18 17:12:32
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