まいご
来世の

しゃべりたいしゃべるしゃべらないですら不自由との抱きあわせ販売でした。小銭を三枚落としたら二枚はいつも返ってきません。おじさん、あたしまた、お金なくしちゃった。電柱にてはためく文字、1LDK、家賃、のゼロをかぞえるあいだに車道をはさんだ向こうへひるがえって消え、帰りの目じるしもなくしました。おなじ横断歩道をかろやかに渡るあたしを、かたちがわからなくなるまで反芻したのち、捨てます。ご近所の道という道にはぐにょぐにょやぐじゃぐじゃのあたしがいっぱいにあふれかえり、うごめきひしめきあっていて気持ち悪いな。なんにもないよ、あげられるもの。それでもかわいそうな目をされればえさをあげたくなる衝動も、できるかぎり遠くへ捨てなければいけません。行くあてを迷っているのがばれないように交番のおまわりさんに会釈して、三分の二の確率でもらえる愛想笑いに含まれる、あいまいな色味と後味だけをよい、ものと思いたくなるのです。
今日ものこり一枚の小銭で、しゃべらないを買おうと決めました。あたし、謝ったらはなまるくれるひとの尾ひれになりたいです。はなまるくれたら誰だってかまわないのですけれど、夜ごはんには親子丼をつくって待っています。


自由詩 まいご Copyright 来世の 2019-04-14 15:19:06
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