うす布
田中修子

金の明かりに照らされた
夜桜のトンネルのした を

屋台の光が金色だ。林檎飴をひからせている。

夜叉か、この、爪、爪を磨いて、
夜桜の香にあてられる、
この手が銀の羽になろうとしている、羽ばたきの、音、が
いやだ、まだここにおる、おる、

林檎飴、かじる。
澄んだ飴のくだける音、そのさきのまあるい果実、
したたる林檎のその汁はイブの香り、
湯気を立たせるわたしの、赤い着物。
血の赤をしている。みだらに切ったばかりの血の赤を、
リンゴの香りはイブの香り、イブは夜叉、そしてわたし。

金朱! 銀橙! の、花びらが散るよぅ、
魔女は火刑に、

(花弁その、
  五枚のうす布を縫い合わされたスカートの裏側
   ひるがえって街灯に照らされている
    わたしらはふしだらな女たちのそのうちがわを
     酒をのみながら好色に覗き込んでいるんだろう)

呵々、笑って歩こう
ほらあ、桜の花びらが舞い降りてそのうす布が、
わたしの髪の毛を死で飾ってくれる。
くびりころしてきましたよぅ、幾人も、この世に溢れかえる怨嗟の声は、
病身の、秒針の音

(うるさいねっ
 チク、
  タク、
   チク、
    タク、えいえんの音)
と共に
桜の花びらが散る

金朱! 銀桃! の、花びらが散るよぅ、
魔女は火刑に処しましょう。

わたしは、
火の柱。

夜をあおぐ、長くたなびく黒髪の焦げる、
風に仰がれて舞い散る桜の花びらに
ポッと
炎が うつる。

火柱、黒く焦げる体、内腑で爛れる林檎飴のにおいは鼻をついて甘い。
キャラメルのにおい。--幼児の口。

燃え上がりながら、つめが伸びる、爪が硬質の銀の羽になる。
娼婦たちの嘆きのうす布は引き裂かれて燃えあがった。
あなたらはもう素顔を見せていい。

桜並木がゴウゴウと燃えあがる。

ここは錦に織られた絢爛の、夢のそこ。


自由詩 うす布 Copyright 田中修子 2019-04-12 17:31:37
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