花真珠のくびかざり
田中修子

真珠はだれに殺された
孫娘に殺された。

 (はないちもんめ あの子が欲しい)

孫娘は泣いている
おうちに帰りたいと
泣いている
真珠の背中のぬくもりが
帰るおうちよ
ほたほた落ちたぬくい涙は
手の甲に
薄い昼の月のようにしみ込んで
目を細くしてほほ笑んでいる。

孫娘は大人になって
そうして母になりました。

 (はないちもんめ 売られた過去は
 水に流して しまいましょうね)

銀の針に白い糸とおして
桜の花びら縫いましょう
あしたには枯れてしまうのよ
淡いピンクのくびかざり
花真珠のくびかざり。

散りぎわの桜がみせる
甘くて柔い 花の顔の幻よ
後ろ髪 引かれて いくど ふりかえっては

……きこえるはずのないおとが……花の雨

 はら、 はら
  はららら ららら、 るる らっ、 らっ
   ぽと ぽとととと さら、 っらっら、

風のかたちに花が舞い
春のつむじ
桜の蜜は女のにおい。少女は、娼婦は、少女は、みなしご。

春のうた 春のおうたを うたいましょ。

 (はないちもんめ はないちもんめ
 百年まえも
 百年あとも
 必ず咲いて
 そうしていつもとかわらず散った
 百年まえも
 百年あとも
 あしあとのこし 消えてゆけ)

桜並木が揺れている
銀とピンクのトンネルは
雪のようにくずれながら
みんなに おうたを うたっているよ。


※「はないちもんめ あの子が欲しい」童謡 はないちもんめ 歌詞より


自由詩 花真珠のくびかざり Copyright 田中修子 2019-04-03 18:23:51縦
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